Magazine No.6
キャッシュレス化に遅れをとる日本ー現金信仰を『AnyPay』はどう変えるのか。
2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「FinTechが変える暮らしと新たなビジネス」と題して行われたセッションの模様を、全8回に渡ってお届けしていきます。第2回は、AnyPay株式会社 取締役COOの大野氏から、お金の流れをシームレスにする構想について語られます。
登壇者情報
- 光本 勇介 氏 /株式会社バンク 代表取締役兼CEO
- 大野 紗和子 氏 /AnyPay株式会社 取締役COO
- 榊原 一弥 氏 /株式会社じぶん銀行 執行役員 決済・商品開発ユニット
- 一村 明博 /株式会社ZUU 取締役 ビジネスソリューション事業部統括 兼 FinTech推進支援室長(モデレータ)
“人と人とのつながり”をテーマに日本の決済を変えたい
一村: では大野さん、自己紹介と会社紹介をしてください。
大野 紗和子 Sawako Ohno /AnyPay株式会社 取締役COO。 東京大学理学部化学科卒業・同大学院修士課程修了。ボストン・コンサルティング・グループにて金融機関を中心とした大手企業の経営コンサルティングに従事した後、Googleへ。インダストリーアナリストとして検索データの分析・顧客へのマーケティング支援を行う。その後、東京大学大学院教育学研究科特任研究員を経て、AnyPayに参画。
大野紗和子氏(以下、大野): よろしくお願いします。
AnyPay COOをしています、大野紗和子と申します。「“人と人とのつながり”をテーマに日本の決済を変えたい」に関してお話できればと思うのですが、私たちは、ネットワークというところに注目しながら、日本の決済を便利に、かつ便利を超えて豊かにしていきたいと思っている会社です。
ひとことで言うと、我々はスマートフォン決済を提供している会社なんですが、すでに2つのサービスを提供しておりまして、1つが左側のほうですね。わりかんアプリの『paymo』。CtoCのわりかんアプリで、今年の1月にローンチしたものになります。
右側が社名と同じ『AnyPay』(編集部注:2017年11月よりブランド名変更し、現在は paymo biz /ペイモビズ)というサービスです。特にスモールビジネスをターゲットとした、オンライン決済を簡単に利用できるプロダクトになっています。
この2つで、CtoCでもBtoCでも、日本の決済を便利にしていきたいと考えている会社なのですが、私自身についても少し自己紹介させていただきますと、最初のキャリアとしてはコンサルティング会社におりました。
当時はいろいろな業界のコンサルティングをしていたんですけれども、たまたま銀行さんや金融機関さんの、リテールマーケティングのプロジェクトに関わらせていただくことが多かったんです。私自身、金融の中でもリテールや人の暮らしに関わること、一般のユーザーに関わるところに興味が強く、楽しく仕事をさせていただきました。
その後Googleに入社しました。、今はスマートフォンが当たり前ですが、入社当時の2013年頃はスマートフォンの検索数がPCを抜くタイミングで、自分でもデジタルの領域で強みをつけていきたいという思いがあり、Googleでアナリストをさせていただきました。具体的には、検索データを分析し、人の興味がどこにあるかをアドバイスする仕事をしていました。
そんな中で、自分自身として新しいサービスを生みだしていくことに関わりたい気持ちが強くなってきまして。ちょうどそのタイミングで、いま代表しておりますCEOの木村新司と知り合う機会がありました。彼がシンガポールでの生活を通して、日本の決済は不便が多いということを実感していて。日本の暮らしを、決済を通して便利にしたいという話があり、私自身もデジタルという領域に行って、次は金融、特に生活のインフラになるようなサービスをやりたいなという思いがありました。
考えてみると、支払いはいろいろなところに関わっていて、毎日みんな無意識にやっているんですよね。時間を使って、手間を使って。それを便利にできるということは、人の生活を変えるんじゃないかと思い、一緒にやりましょうと、今に至っております。
先輩の機嫌を気にせず、飲み会代を回収できる!?
AnyPayは去年の6月に設立した会社で、満1歳ぐらいの会社です。現在26名ほどの社員で、半分がエンジニアです。それで2つのサービスを運営しております。
日本の決済をマクロな視点で話をすると、先進国のわりに決済の電子化が遅れているということがあります。GDPに対して、紙のお金やコインの残高がどれぐらいあるのかを比率でいうと、スウェーデンでは2%ぐらいですが、日本は20%程度もあり、物理的なお金の比率が高いということです。
それが高いといけないのかということがありますが、みんな無意識に不便さを感じていたり、時間がかかっているところがあります。
割り勘についてユーザーインタビューすると、会社の飲み会で後輩がお金を集めるとき、先輩の席を後日まわって集金するのですが、先輩の機嫌が悪いと声が掛けられず、次の日も集金に行ってと繰り返すなかで、2時間ぐらいかかってお金を集めているという話があったり。
先輩に何度も言うと怒られるので、5,000円くらいは我慢して自分が引き受けてしまうというお話を聞いたりします。
そういう問題をなくしていきたいのが1つと、不便をなくすという負の解消だけではなく、2つ目が今までになかった機会をつくっていきたいということで、それはCtoCの部分でも、BtoCの部分でも、あるかと思っています。
我々がカバーしている、『AnyPay(現paymo biz)』と『paymo』の2つの決済の領域ですが、“個人間”と書いてある1番左の『paymo』がスマートフォンで割り勘ができるサービスです。
右側の『AnyPay(paymo biz)』がBtoC領域で、1つはWEBの販売がいろいろな形式でできるというところで、従来のECのような物販だけではなく、サービスのチケットや、自分でイベントのチケットを発行したり、ダウンロード販売ができる。そんな、いろいろな事業主の方のニーズに応えるかたちを提供しています。
最近推進しているのが、リアル店舗でのQR決済です。こちらはバンクさんが入られている建物の1階にあるカフェなんですが、こちらにもQR決済を入れていただいていて、リアルな店舗でもスマートフォン決済ができる、ということをやっています。
決済アプリは、CRMにまで展開を考える
我々はCtoCとBtoCを、1つのお金の流れにしていきたいと考えています。
金融の面からすると、BtoCでの物の購入と個人間の割り勘は性質が違うものですが、ユーザーからすると別々のサービスに分かれているのは面倒です。そこをお金の流れとして、1つのプラットフォームにつなげていきたいという思いがあります。
左の図は割り勘を表していますが、幹事がスマートフォン上の『paymo』のアプリでお金を集め、それを使って他の割り勘に対して、そこから支払うということもできます。
それに加え、当社のサービス2つを連携することで、『paymo』の残高を使って、『AnyPay(paymo biz)』の加盟店から物を買うことができるようにもなっています。この2つを一緒にやっていくことは、便利ということに加え、そこから生まれる付加価値としてもう1つデータの活用があると思っています。
具体的にいうと、わりかんアプリ『paymo』では、誰と割り勘しているか、友達がどれだけいるかという、ソーシャルネットワークのような部分もあり、『AnyPay(paymo biz)』では、何をどこの店で買っているかなども分かってくると思います。
それがわかるとどういうことができるかというと、毎日よく行ってるカフェでも、毎日その人が小銭で払っている方だったら、そのお客様が毎週水曜日に来る常連のお客様だとしても、対応する店員が毎回違うと気づかないし、新商品のお知らせをすることができません。
それがスマートフォンで決済をしていると、今までの行動がデータ化され、「この方は毎週来ている方だ」「こういうものが好きなんだ」というのがわかり、CRMのような機能もつながっていくと思っています。
データ化することで、早さや便利さだけではなく、今までにないことをやっていきたいと思っています。
決済の利便性向上は、お金の流れを生み出し経済を動かす
こちらはQR決済の例なのですが、今年paymoを逗子の海水浴場の海の家に導入いただきました。30万人ぐらいお客様がいらっしゃるところです。
また先ほどの渋谷のカフェや、いろいろなオフィスで弁当やお菓子を買うところでも、実際に使っていただいています。社内での100円〜200円のモノの購入の場合、小銭がないと買いたくても今すぐ買えないというようなことがあります。店からすると売り逃しですし、買うほうからすると残念ということが結構あると思うんですけれども。
そうした毎日、同じ方が使うものほど、1度登録してしまうとスマホで簡単に払えるので、メリットが大きいと思います。
こちらの図は、バイラルで広がるAnyPayを表しています。BtoCでもCtoCでも、お金のやり取りは1人で遊ぶゲームと違い、相手があって成り立つものです。誰かが使ってくれ、「paymoで割り勘しようよ、これ簡単だし」と言ってくれると、そこから口コミを通して実際に広がっています。
自分で見つけてダウンロードした人よりも、知り合いが使っていておすすめされたほうが、使い始めるアクティブ率も、継続率も高いというデータも出ています。そこが面白さだと思っています。
割り勘するときに「紙のお金がいいな」と言う方がいると使いづらいというマイナスの面ももちろんあるので、そういう課題は、UIの面であったり、わかりやすさ・安心感というところで、乗り越えていかなくてはいけないと思っています。
便利からその先へとありますが、我々『AnyPay(paymo biz)』と『paymo』で、決済を便利にする事業をしていますが、決済はお金の流れを生みます。中国などを見ても、決済を中心としたお金の流れをもとにして、ユーザーに対しいろいろな機能を提供していくという流れがあると思っています。
そこを核にしながら、たとえば後払い・ローンや、投資・運用、会計・家計簿など、FinTechの他の領域とも統合していきたいです。自社だけでやるというよりも、いろいろなプレイヤーの方と連携しながら、やっていけたらいいと思っています。
またその先で、これをまたいだデータを作りながら、データプラットフォームとしても提供できたらと思っています。
一村: ありがとうございました。
アメリカにはKabbage(編集部注:カバッジ https://www.kabbage.com/)という会社があって、そこはPayPalさんや、FacebookのようなSNSのデータを利用してローンをしている会社です。
もう300億ぐらい貸付ていますが、AnyPayさんなどは融資のほうに踏み込んでいくと、まさにそれを日本で体現していくような企業になるかと想像しています。
個人的に言わせていただくと、割り勘はもっとどんどんやってほしいです。この年になるとほとんど僕が払うということが多くなるんです。
(会場笑)
paymoを理由に、僕の支出を減らしたいと思います。ぜひ作っていただきたいです。
大野: ぜひ周りに紹介していただければ。