リビングテック協会 -LIVING TECH ASSOCIATION JAPAN-

Magazine No.2

テックで暮らしを変えるために、企業は、研究者は、どう動くべきか?

2020.07.09

テックで暮らしを変えるために、企業は、研究者は、どう動くべきか?

2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「FutureLiving」と題して行われたセッション(全9回)の7回目をお届けします。建築×テクノロジー、暮らし×テクノロジーというテーマで繰り広げられるクロストーク。話題は、日本企業の経営戦略へ――。

登壇者情報

囲い込み体質からは、“独占”ではなく“孤立”しか生まれない

井上: では後ろの方。

質問者4: VR企業の¸DVERSEという会社の沼倉です。VRの中でデザインを確認するプロダクトを提供しています。

先ほどのデータの囲い込みの話でいうと、例えばスマートスピーカーのように、一般の方が使いやすいように音声アシスタントを展開していく動きがありますが、音声認識のデータに関しては囲い込みをするのではなくオープン化してもっと使いやすくしていこうという流れがあります。そういう意味で、今後は一社で囲い込みをしていこうとすると、どんどん孤立していってしまう可能性が高い。

だから日本も、日本だけではなくグローバルでオープンにしていかないと、なかなか勝負できないのではないかという個人的な感想がひとつあります。

井上: そうですよね。それに対立するかのように、アマゾンさんはデータを自社で囲い込もうとしていますよね。

質問者4: アマゾンも、結局は自社でやっているところと他と組むところがあって。徐々にオープン化の流れに動いているみたいなんですよね。

そういう意味で、オープンイノベーションではないですけど、世界中でどんどんデータを公開していく流れになっているので、日本も日本の中だけではなく、世界と積極的につながっていくべきなんじゃないかなと思っています。

井上: ありがとうございます。オープン化で、共同で活用しましょうというのが自然な流れだと思います。

たぶん、ある一社がビッグデータを使いこなして自社だけで収益化するモデルというのは、おそらく続かないと思います。それで、自社だけで処理しきれるほどのデータ量を遥かに超えるようなデータが、これから特にIoTのチップの普及によって生まれてくると思います。

日本企業の勝ち筋は「高齢化」と「ヘルスケア」にある?

このあたり、「住まい」「リビング」ということと、テクノロジーの中でもIoTとかセンサといったところで、こんな世界になるんじゃないかというご意見をお持ちの方がいらっしゃいましたら。

では一番後ろの方、お願いします。

質問者5: MyCityの石田と申します。

どんな世界になるかという直接的なイメージというよりは先ほどの話題の続きになるんですけれども、プラットフォーム化された時に、日本のパナソニックさん等がどういうところで価値を出しうるかということですが、プラットフォームをつくるのは難しいと思います。

そうすると、どういう形のデータで価値を出して、グローバルに戦えるものをとってインターフェースを築いていくのかなと考えると、キーワードとなるのが「高齢化」と「ヘルスケア」というところかなと。

先ほどのセッションでも話されていた(編集部注:SharingEconomyをテーマにしたセッション。ここで取り上げられている話題はこちら※リンク)のですが、洗濯機や掃除機もヘルスケアのデータポイントとして使えるところがあって。

こんなにたくさんの高齢者が家にいて、しかも多くの人が健康でいるという市場で、そこに気づけるとグローバルでもやっていけるんじゃないかなと思います。そこで家電プレイヤーが力を上げてくるのではないかと、個人的にはパナソニックさんをはじめ日本の家電メーカーの、一つのニッチの戦い方として期待をしております。

井上: ありがとうございます。

先ほどのセッション、僕も少しだけ聞きかじっていましたけれども、洗濯機が洗い物を分析して、普段の皮脂や汗の成分などが違うと「風邪ひきそうだよ」とアラートが出たり。掃除機で吸っていると、ほこりが多くてPM2.5が混ざっているとか、ウイルスが入っているといったことが分かって、「風邪をひきやすそうな環境だからクリーニングしましょう」とアラートされたり、そういうことなのかなと想像しています。

そのへんの高齢化社会に向けた、ヘルスケアとか高齢者へのケアというのは、きっとここで話せない企業秘密かもしれませんけど(笑)。きっとそんなことは、ご検討はされているんですよね。

あとは総務省でしたっけ、ビックデータを共同所有して活動していきましょうといったことの検討が始まっているじゃないですか。各企業が持っているデータを自社だけで保有するのではなくて、情報バンクに集めて共有していきましょうと。そうなることを見据えて、これから各企業や各ベンチャーが戦略方針を定めていくのが非常に重要かなと思います。

ちなみにIoTチップに関しては、聞きかじりですけど、500億個普及するというデータもあれば、さらに桁が2つ上だという予測もあります。たぶん人体の中に入ったり、身につけているものに付いたり。繊維の中にセンサを織り込んで、一見ただの洋服だけど全てセンサリングしている、とったことを考えているベンチャーやテクノロジーも出てきていますし、家電の中にも壁にも、ありとあらゆるところにセンサが入って、そのデータが吸い集められていく。

このような、ちょっと昔に見たSFのような世界が、あと5年くらいでかなり現実的になってくると思うので、そうなった時に自社の戦略をどこに置くかというのは非常に大きな観点かなと思います。

技術を社会実装する場としての“Living Anywhere”

秋吉さんからはそのへんどうでしょうか? アーキテクトからみて、“テッキー”(Techie)な世界がどう進んでいってほしいか。

秋吉: テッキーな世界というと…

井上: VRもありますし、人工知能、シンギュラリティ、ロボティクス、IoT……

秋吉: 僕がいわゆる研究者として動いていることは、例えばロボットアームが、プログラムされて橋を自分たちでつくっていくとか。あとは海外で盛んにやっているのは、人工知能で建築の設計をどうやるのかというプログラムを組んだりとか。

意外とこうした取り組みはMITなど海外のトップの研究拠点でやってはいるのですが、技術を知っていたとしても、それをどういう段階から落としていくのかというのが実務レベルでは重要なことで。

僕らは、もちろん修士のときにはもっと高度な技術を使っていたものの、いまビジネスレベルで展開しようとしたときに、あえて一番下の技術から始めています。段階的に……入れられる領域と入れられない領域があるんですよね。つまり、ロボットアームだったら1台の導入コストが1,500万円とか3,000万円するんですけど、それが300万円になったらどうかとか。段階的に、技術的な未来予測はできると思っています。それが今、一番コスパがいいというか。導入コストが低くてリターンが高そうなものをいろいろ試しています。

自分はいわゆるデザイナーですけれども、どんな技術がいつ開発されて、いつ特許が切れて、いまどれくらい進歩しているのかを見ながら展開をしていますので、いま最もアクセシブルなものをとりあえずビジネスレベルでは使っています。研究レベルでは5年10年先を行っているのですけれども、そこの距離感をいかに早く社会実装させてあげるのかということです。

先ほど地方の映像でドローンを飛ばしたりしていましたけど、地方行政のトップと話していて楽しいのは、町長が良いよといえば良いとか、そういうレベルで実装できるんですよね。それは面白いなと。

ですので、僕らにとっての最初のアウトプットというか仕事の領域としては都心じゃなくて、いまLiving Anywhereが見ているような領域だと思っています。そしてLiving Anywhereが入ってくる、そういう領域が出てくるメリットしては、僕らは住宅産業ですけど、例えばこの前は仮想通貨のベンチャーが来たりだとか、最先端の技術を持ったいわゆる研究開発型のベンチャーが社会実装したくて来るんですよね。

大企業の方も、そういう場所に来て一緒に交流して、お互いにナレッジ共有してやっていく場として成り立つなというのは、先日参加して思いました。